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遺伝子工学(バイオテクノロジーとも言う)は、遺伝子(=タンパク質の設計図)を切ったり貼ったりして、思い通りに遺伝子を合成しちゃえる技術です。まず、遺伝子工学に無くてはならない道具を2つ御紹介したいと思います。(1)制限酵素(せいげんこうそ)・・・DNAのある特定の配列を見つけ出してちょん切るハサミのようなもので、タンパク質で出来ています。制限酵素には数多くの種類があるので、自分の切りたい場所を切断する制限酵素を選んで使用します。(2)リガーゼ・・・DNAとDNAを連結するときに働く酵素です。もちろん、タンパク質で出来ています。結合させたいDNAをリガーゼと混ぜておくとDNA同士を結合させることが出来ます。この2つの道具を使ってDNAを切ったり貼ったりしているのが、分子生物学者のお仕事の大きな部分を占めています。
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先ほどはDNAを切ったり貼ったりする道具についてお話しましたが、ここではDNAを大きさによって分類する実験法を御紹介します。どんな配列のDNAでも、DNAは少しだけマイナスの電気を持ってるという性質があります。ですから、DNAを電気が流れている水槽の中に置くとプラスの方向に引っ張られて移動します。このとき、水槽の中に寒天を沈めて、その寒天の中にDNAを置くと、DNAはプラスに引っ張られながら寒天の中を通ります。寒天には細かい網目があるので、DNAは網目にひっかかったり、はずれたり、またひっかかったりしながらプラスの方向に動いていくことになります。もしも大きなDNAだと細かい網目にいっぱいひっかかりながらプラスに方向に進むので、なかなか先に進めません。ところが、小さいDNAは網目をすいすいくぐり抜けるので、プラスの方向にどんどん進んでいきます。結果として、大きなDNAは寒天の中をゆっくり進み、小さいDNAは寒天の中を早く移動します。このように、水槽に寒天を置いて、寒天の中にDNAを入れて電気を流すと、DNAを大きさによって分類することが出来ます。
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さて、遺伝子工学を語る上で絶対にはずせないのが大腸菌の利用です。薬品でちっちゃい穴をあけた大腸菌とDNAを混ぜると、DNAが穴から大腸菌の中に取り込まれます。そして、遺伝子の暗号は大腸菌から私たちまで共通なので、自分のDNAじゃないとも知らずに、大腸菌は外らから入れられたDNAを大切に持っていてくれるのです。ここで、大腸菌を使う利点について説明しておきます。それはなんと言っても増殖の早さです。私たちが子供を産むまでに成長するには15〜20年くらいかかりますよね。ネズミでは大人になるまでに2〜3ヶ月です。これが酵母になると1時間半で分裂するんですけど、大腸菌は30分で1回分裂するのです。例えば、研究室を帰る時間の17時に1匹の大腸菌の培養を始めたとすると、17時半に2匹になり、18時には4匹、18時半には8匹、19時には16匹・・・・翌朝の9時に研究室に行けば約43億匹になっているのです!(嘘だと思ったら自分で計算してみて下さいね)。大腸菌は外から導入されたDNAもちゃんと子孫に伝えているので、DNAが導入された大腸菌が43億匹になっています。この大腸菌から入れたDNAをまた取り出せば、DNAが43億倍になっています。つまり、大腸菌の早い増殖のおかげで、DNAを増やすことができるのです。さらに、生物入門でご説明したように、大腸菌は人と同じ遺伝子暗号を使っていますから、外から導入したDNAに書かれたタンパク質の設計図を読むことが出来ます。これを利用して、人のタンパク質を大腸菌に作らせて、これを薬に使ったりしているのです。大腸菌というと、O157のように病原性大腸菌のイメージが強いと思いますが、大腸菌は悪いやつばかりじゃなくて、非常にお世話になっている大腸菌もいるのです。
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遺伝子導入には色々な方法があり、植物や動物の種類によってそれぞれに適した方法があります。ここではマウス(ネズミのこと)を使った一般的な遺伝子導入方を紹介したいと思います。まずマウスの受精卵を用意します。そして、ガラス管を熱で引き伸ばして作った細〜い注射針を使って、導入したいDNAを注入します。こうしてDNAを注入した受精卵を、育ての親となるマウスのお腹に移植して子供を産ませます。注入されたDNAは分解されてしまうことが多いのですが、熟練した技術者がやれば10匹に1匹程度の確立で注入したDNAがマウスがもとから持っていたDNAの中に取り込まれます。こうして出来上がった遺伝子導入マウスの設計図には外らか注入したDNAの情報が書き込まれていて、この情報は子や孫に受け継がれていくことになります。たとえば、「血圧を上昇させる作用を持つタンパク質をいっぱい作れ」という情報が書き込まれたDNAを注入して、「つくば高血圧マウス」という遺伝子導入マウスが作られました。この高血圧のマウスを研究することにより、人の高血圧の治療に役立てることができるのです。
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ここではクローン羊の作り方をご説明しますが、その前にクローンとは何かご存知でしょうか?私とキムタクは同じ人間なので、目が2つ、鼻が1つ、耳が2つ・・・と同じような形をしていますけど、鼻の高さやら、目の位置やら、全体のバランスなどが少しずつ違っています。少しの違いがいっぱいあると、全体としては別のものに見えてしまうのですが、一つ一つみればちょっとの違いです。キムタクの鼻の高さが私の10倍も高いわけじゃないでしょ!?つまり、私たちの身体はだいたい同じ形なんですが、少しずつ違います。この少しの違いのことを個人差と言いますが、この違いは遺伝子に書き込まれている情報の違いによるのです。背の高い人の子供は背が高かったり、鼻が低い人の子供はやっぱり鼻が低かったりしますよね。この用に、体型の個人差の多くは遺伝情報によるのです。ではクローン人間とはどんなものでしょうか?それは、遺伝情報が全く同じコピー人間のことです。遺伝情報が同じなので、生命の設計図にかかれている情報に制御されている部分は全部同じということになります。一卵性双生児の双子は全く同じ遺伝情報を持っているので、非常にそっくりに見えますよね。あれと同じことです。ここで注意が必要です。よく漫画にあるようなコピー人間は自分と同じ人間ができるみたいに描いてあります。しかし、それは誤りです。正確には自分と遺伝情報が同じ人間ができるだけであり、今までの経験や記憶はクローンにはまったくありません。ですから、クローンとは双子の兄弟みたいなモノだと思えば良いでしょうね。さて、やっと作り方の説明をしたいと思います。人の身体にはものすごい数の細胞から出来ていると生物入門のコーナーで述べました。さらに、それぞれの細胞が生命の設計図を使っていると言いました。そして、生命の設計図である遺伝情報は核にあるDNAに描かれているということもご説明しました。このことを思い出してください。まず、未受精卵を用意して、ガラスの針を使って核を取り除いてしまいます。すると、未受精卵は何の遺伝情報も持たなくなってしまいます。この空の未受精卵に、クローンを作りたい固体の体からとってきた核を入れます。こうして全ての遺伝情報を含む核を入れ替えた未受精卵に刺激を加えてから育ての親に移植します。こうして、ある固体とまったく同じ遺伝情報をもつクローンが出来ます。クローン技術は、良い品種の牛肉を安定に得るために利用できたりします。また、クローン人間を作ることによって臓器移植問題の解決を考えた科学者もいました。クローン技術は倫理的に難しい問題があり、これからも活発に議論していかねばならない人類の大きな問題の一つだと思います。
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